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いま、この手にあるもの。

2023年6月16日


見損なうんじゃねえ、お忍びの百万長者だ――


黒澤明の「七人の侍」をリメイクした西部劇の名作「荒野の七人」から、チャールズ・ブロンソン扮するオライリーがクリスとヴィンに「文無しか」と声を掛けられた場面の台詞だ。

メキシコの寒村イストラカンを盗賊の手から守るために集まった七人のガンマンは、いずれも脛に疵(きず)を持つお尋ね者。彼らは自らの身分を「守る家も家族もなし、見通しはゼロ」「骨を埋める国は無し、頼ってくれる人も無し、敬う恩師も人も無し」「侮辱に耐えることも無し、(生きている)敵も、無し」と口々に語る。一か月半の用心棒の仕事をたった20ドルで引き受けるほど、西部開拓時代に栄華を誇ったガンマンももはや時代遅れであることが暗に示される。それが冒頭のようなシーンにもつながるのだ。しかし彼らは銃一つで渡り歩いてきただけに、射撃の腕にかけては右に出るものがいない。超一流である。実際はその日の朝メシ代を稼ぐために薪割りをしていたオライリーはクリスとヴィンに虚勢を張ってみせるが、20ドルのオファーに「今は大金だ」と答えて仲間に加わる。身寄りもなく、財産もなく、しかしその小さな誇りのもとに持っているのは、ガンマンとしての超一流の腕のみ。それだけだ。でも、それだけを拠り所として生きていく。でも、それでいいではないか。自分の現在の境遇を重ね合わせてみて、うん、それでいいんだと思い直した。すっかり時流に乗り遅れてはしまったけれど、愚直に生きていく。言っておくが、俺は超一流だぜ


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