2021年3月3日
1968年公開の映画「華麗なる賭け」(米)の中でスティーブ・マックィーン演じる大富豪のトーマス・クラウンが電話をしているシーン。パテック・フィリップの懐中時計に付けた
キーアクセサリーを弄っているのだけど、これがファイ・ベータ・カッパ・キーだ。ファイ・ベータ・カッパとは、1776年、ウィリアム・アンド・メリー大学で創立された成績優秀な大学生のフラターニティ(社交コミュニティー)で、全米で最も古い歴史を持つものだ。日本で言えば校友会、友愛会といったところだろうか、このメンバーになることは大学生にとっての最大の栄誉だとされる。そういえば昔「ビバ・ヒル」などのドラマを見ていると「カパ・エプシロン」や「アルファ・オメガ」というキーワードが敷居の高いハイソな社交クラブの名称として登場していたのを思い出す。こうした組織はギリシア文字を用いるのが通例のようで、ギリシア文字協会とも呼ばれるのだそうだ。自分は専門学校出身なので全く縁遠い世界だけれど、父と兄が東京六大学出出身ということもあり、実社会における優等生(エリートとまではいかない?)の姿というのはおぼろげながらにイメージ出来る。いつの世にも、どこの国でも学閥というものは在るもので、それをステイタスと取るか排他的なエリート主義だと嫌うかは人それぞれだ。学業でも、仕事でも、何かに取り組むにはさらなる高みを目指すというのは人間の本能であって、努力の末に目的を達成して手に入れたものは人生の余禄であり、自分にとっての勲章のように思うのだろうね。富もあり誇るべき学歴も名誉もある。その象徴としての小道具が、「華麗なる賭け」におけるあのキーなのだろう。
ネットであれこれググっていたら、件の「ファイ・ベータ・カッパ・キー」の通販サイトがあったので申し込みをしようとすると(当然ながら)貴方の出身大学、もしくは紹介者は誰であるか云々を記入しなければならないことに気づいた。それはそうだ、縁もゆかりもない人間が買えるはずもないステイタスなのだ。「華麗なる賭け」の撮影においても、スタッフのセット・デザイナーが持っていたものをあちこち探してようやく借りたというから、簡単に手に出来るものではないのだ。ebayで探すと古いものが1万円前後で出ているが、雰囲気を楽しむためだけに払う金額ではない。手頃な価格だったファイ・デルタ・カッパ(教育者向けの米国の専門組織)のキーを手に入れて、安物の懐中時計に付けてみた。キーの形状は映画の物と全く同じだから、アクセサリーとしては役目充分。懐中時計を持つのは初めてのことだけど、手巻きというのがいいね。愛着を持って日々扱わねばならないし、うやうやしくハンターケースを開けて文字盤を眺める愉しみは男のダンディズムに通じる。そもそもが時刻を知るためではなく、すでに承知している時刻をあくまで確認するためのツールではないか、とさえ思う。経済的な余裕だけではなく、心の余裕があってこそ手にするもなのだと言ったら言い過ぎだろうか。ちょっと気障だけど、日常で使うのもなかなか悪くはないね。
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