イタチゴッコ。
- Ryusaku Chijiwa

- 8月8日
- 読了時間: 3分
更新日:8月14日
2025年8月8日
4月の発売の際にあわてずともいつでも買えるだろうと構えていたらあっという間に品切れとなり途方に暮れていたところ、アンコールプレスが行われるとの告知で予約をし、三か月待ってようやく届いたCDボックスセット。実に46年も前のYMOの初のワールドツアーにおけるライブ音源。だが今回のリリースはどんな購買層がターゲットなのか。誰に向けて誰が喜ぶ内容なのか。高額なセットを買うのはコアなファン層だけだ。いくら伝説のバンドと謳われていても曲目のほとんどが重複している上にそもそもが発売を前提としていない演奏を収めた5枚組を興味本位で買おうと思う人はいないはず。オリジナルアルバムには綺麗に着飾った(エディットされた)ライブ盤(「パブリック・プレッシャー:公的抑圧」もありその内容だけでも生演奏の臨場感は充分に伝わる。実はYMOのライブ音源と言うのは当時TVやラジオでオンエアされる機会が多く、また90年代以降にビデオやCD、DVDなど散発的にソフト化されてきた。そして2000年代に入ってからは動画サイトなどでもレアな映像や音源が多数アップされており、かつてのキッズ達はそれらをつぶさにチェックしてきた。だがややこしいのは「数多くの音源に異なるバージョンが存在する」ということだ。唯一の公式なライブ盤がレコード会社の意向により渡辺香津美のギターをすべてカットして坂本龍一のシンセパートをオーバーダビングしていることに端を発して、ラジオ番組で放送されたノーカットのオリジナル音源がファンの耳に馴染んだものの後年それをソフト化する際に余計なエフェクトをかけたり必要以上のバランスの調整(ミスを隠したり聴きやすくするためと思われるもの)が行われて別物になってしまっている。次第に販売元の(旧)アルファレコードはマニアが聴きたがるレアな音源を小出しにする売り方が「アルファ商法」と揶揄されるようにまでになった。おそらく多くのファンはミスタッチも器材のトラブル等も含めすべてそのまま音源化して欲しいと願ってきたのではないのか。そして今回のリリースこそがそうした積年の切望を満たしてくれるものだ――と期待をしたファンは多かったのではないか(かく言う自分もその一人)。しかしその思いは見事に打ち砕かれた。YMOと関わりの深いゴウ・ホトダによるリマスタリング、細野晴臣氏が監修に当たっているということで公式なライブ盤という位置付けが出来うる商品だったが今回も過去の例にもれずミスを消し去り余計な飾り立てをしたものになっている(ほぼすべての音源は過去に聞いているのだ)。最も期待していたヴェニュー10/24の「ジ・エンド・オブ・エイジア」(公的抑圧に収録された演奏)の完全版は収録されず、1991年発売の「フェイカー・ホリック」収録の短縮版に準拠していた。完全版は何年も前からYouTubeに上がっているのに!(ワールドツアーに帯同したマニピュレータ松武秀樹氏のナビゲートによる「YMO夜の会」にて)。
ここまで来ると、もはや「そのままの音源化」は望めないものということが確定したようなもので、嬉しいはずの視聴が奈落の底に突き落とされたような絶望感を味わう事となった。
「アルファ商法」が、2025年にまだ生きていたとは―――。



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