2020年12月5日
今年になってから、坂本龍一さんの「EXHIBITION」という曲が無性に聴きたくなったもののどのアルバムに入っていたかしばらく思い出せないでいた。自身のiTunesには入っていないし、Apple Musicのライブラリにも見当たらず。改めて調べてみると、1985年に発売された12インチシングル「フィールド・ワーク」の一曲であったことを突き止めた。ベスト盤にも収録されておらず、ファンの間で語られることもあまりなかったはず。15分半にも及ぶ大作でありながら、メロディやハーモニー、リズムといった音楽を構成する要素は殆ど排され、聴けるのはパルス音とSE(効果音)が主体で、ほぼ変化することのないコードがバッキングで流れるのみ。だがこの風変わりな音の世界が妙に心地好く、その中に身を委ねていたいような不思議な感覚に襲われる。初めて聴いた高校生の頃からすっかり馴染んでいることもあって、まるで胎内回帰をするような懐かしさを感じながら再聴した。たまたまYouTubeにアップされていたのを見つけたが、各トラックのBPM(テンポ)に異なる素数を割り当てたものだという分析をした人がいた。驚くなかれ、この曲の正体は恐ろしいまでに緻密に計算された実験音楽であったのだ。ミニマルな体裁を持っていながら、聴こえてくるのは心休まるようなアンビエント・ミュージックになっている。35年前、あまりにも時代を先取りした坂本教授の野心作であることを、もう一度見直してもいいのではないだろうか。YMOに夢中になったことの付加要素として、古くはエリック・サティからスティーブ・ライヒ、ジョン・ケージやクセナキス、高橋悠治や高橋アキといった名前を聞きかじることができたのは今にして思えばありがたいことだったんだね(深く掘り下げることはしなかったけれど)。
豊かなものに触れ、自らの知識、精神といったものがさらに豊かになる。素晴らしいね。
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