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せみのこえ。

執筆者の写真: Ryusaku ChijiwaRyusaku Chijiwa

2020年8月26日


観測史上、歴代最高気温の記録を次々と塗り替える酷暑が列島を覆っている中でも、そよぐ風はどこかひんやりとしていて秋の気配を感じるまでになってきている。連日聞こえている蝉の大合唱も次第に勢いを失いつつあって、夏はあっという間に終わるのだなと感慨に浸っていたりする自分。今の住居に引っ越してきて6年、夏になると夜はマンションの街灯に蝉が寄ってきて飛び回り、朝はひっくり返った蝉が廊下のあちこちに転がっている、というのがもはや風物詩のようになった。音が大きいので最初は怖かったけど、次第にそれにも慣れてきた。転がっている蝉はチョイとつついてやるとジジジッと飛んでいくので、「こら、まだ夏は終わりじゃないぞ、こんなとこで寝てる場合じゃないんだ」と心の中で呟きながら蝉を起こしてやるのが日課のようになった。聞けば、蝉は寿命が近づくと身体が硬直して関節が曲がるので、地面に身体を支えることが出来ずひっくり返ってしまう。蝉の目は背中側に付いているので地面を見たまま死んでいくのだという。夏の日差しのもと、元気よく精一杯鳴いて、その最後がそんな形というのは何とも哀れな気がする。冷たいコンクリートではなく、せめて地面の上で、土の上で寿命を全うして欲しいのだ。蝉は、夏の象徴なのだから。


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